【新大久保語学院レターNo.6】トッポッキ
【トッポッキ】
|
|
|
|
暖かくなってきて、身の回りで海外旅行の話題を耳にすることも増えてきました。韓国旅行といえば、真っ先に思い浮かぶのが「グルメ」。現地のお店や活気あふれる市場に出かけて食べ歩くのは楽しいですよね。今回は、軽食の定番メニュー「トッポッキ」についてご紹介しようと思います。
〇「トッポッキ? トッポギ?」 近年、都内のスーパーなどでもソースつきのトッポッキ調理セットが売られているのを見かけるようになりました。パッケージの表記は「トッポッキ」だったり「トッポギ」だったりしますが、本来のハングル表記は「떡볶이」です。日本語の発音にはない子音と母音が含まれるためカタカナで表記するには限界がありますが、どちらかと言えば「トッポッキ」のほうが近いでしょう。むしろ、「トッポギ」だと「虫眼鏡(돋보기)」のほうに近い音になりそうです。 「떡볶이」がどういう構造の単語なのか、ちょっと詳しく見てみましょう。分解すると、떡(餅)と볶이(炒め)からできています。볶이は動詞の「볶다(炒める)」に接尾辞「-이」がついて名詞化した形で、名詞化する接尾辞には他に「-음」もあります。料理には名前からどういうものか推測しやすいものが多く、「볶이」や「볶음」がついていれば「炒めたもの」になり、ヤンニョムを混ぜて炒めたもの全般という捉え方が適切でしょう。似た料理の仲間をいくつか挙げてみます。 - 라볶이:라(ラーメンの略)+볶이→「ラポッキ」。これも最近スーパーで見かけるようになりました。 - 제육볶음: 제육(豚肉)+볶음 - 볶음밥:볶음+밥(ごはん)→「炒飯」 - 불닭볶음면:불(火)+닭(鶏)+볶음+면(麺)→「プルダックポックンミョン」。 日本でも辛いもの好きを中心に大人気ですね。 ちなみに、日本の韓国料理店では「イカポッカ」のように「~ポッカ」と表記されていることもあります。なぜこうなったのか詳細は不明ですが、「볶아 먹다(炒めて食べる)」の後半が抜け落ちた形だという説があるようです。 〇トッポッキは嗜好品?? 韓国の友人と一緒にトッポッキを食べているときに、「トッポッキは嗜好品だよ」と言われたことがあります。溜まったストレスを解消してスカッとしたいときや、悲しいことがあって泣きたいとき、思いきり辛いトッポッキを食べるのだそうです。つまり、カフェインやアルコールのようなポジションにあるというのです。一緒に食べているときにそう言うのだから、何か吐露したいことがあるのだろう……と察して「何かあった?」と訊ねた私に、友人はトッポッキをつつきながら愚痴をたっぷりこぼし始めました。唐辛子のカプサイシンの効果で汗をかく爽快感による部分も大きいはずですが、辛いものを食べると脳内麻薬の分泌が促され、ストレスが静まったり多幸感が得られたりすることもわかっているようです。決して「気がする」だけではなく、実際に人間のメンタルに影響を及ぼしている部分もあるのですね。 メンタルとトッポッキと言えば、数年前に『死にたいけどトッポッキは食べたい』(パク・セヒ著/山口ミル訳、2020年光文社刊)という本がベストセラーになりました。著者のペク・セヒさんは、深刻なうつ症状とまでは行かないまでも、慢性的な憂鬱感に悩んでいたそうです。内容は、精神科に通い始めた著者が先生と交わした対話の形式で進んでいきます。トッポッキは著者の大好物だそうで、タイトルの付け方が秀逸なところもヒットの要因だったのではないでしょうか。「誰かに話す」ことで考え方の癖がわかってくる展開に親近感を覚えた読者が多かったようで、第二弾も出版されました。どちらも翻訳されて、日本でも何度も重版がかかるほどのヒットを記録しています。 |
|
ロケーション的に東大門エリアからも近いので、観光のついでにトッポッキ屋さんをはしごしてみるのも楽しいのではないでしょうか。個人的な思い出として、東大門総合市場でワッペンや小物を見たあとに足を延ばして味わったのを覚えています。ちょっと疲れたときに味わう甘辛さには格別なものがあります。
〇釜山で食べた人気店のトッポッキ さて、最後に具体的なトッポッキについて紹介したいと思います。つい先日タイミングよく釜山に行って、 現地に住む友人おすすめのお店でトッポッキを食べてきました。チャガルチ駅から少し歩いたところにある、国際市場とつながった富平カントン市場の「イガネトッポッキ(이가네떡볶이)」。友人が「釜山で一番おいしい!」と力説するのもうなずけるおいしさでした。韓国料理専門家のベク・ジョンウォンさんの番組で優勝した経歴もある人気店だそうです。 |
|